スマートフォンやワイヤレスイヤホンのスペックを見ると、
「Bluetooth 5.4」
「Bluetooth 6.0」
といった数字を見かけます。
そして2026年5月には、さらに新しいBluetooth Core 6.3が公開されました。
ここで気になるのが、
「Bluetooth 6.3になればイヤホンの音質も良くなる?」
「ついにBluetoothでもロスレス音源をそのまま聴ける?」
「7.5Mbpsになるという話はBluetooth 6.3のこと?」
という点です。
先に結論をまとめると、
Bluetooth 6.3になっただけでは、イヤホンの音質が良くなるわけではありません。
一方でBluetooth SIGは現在、最大7.5Mbpsを目指す「High Data Throughput(HDT)」や、LE Audioのロスレス/ハイレゾ対応を進めています。これらが製品化されれば、今後のBluetoothイヤホンは大きく変わる可能性があります。
今回は、
Bluetooth 6.3で何が変わったのか
7.5Mbpsとは何なのか
Bluetooth標準のロスレスはいつ実現するのか
を分かりやすく整理します。
Bluetooth 6.3とは?
Bluetooth 6.3は、Bluetooth SIGが2026年5月に公開した最新のBluetooth Core Specificationです。
Bluetooth SIGは現在、約半年ごとのペースでコア仕様を更新しており、Bluetooth 6.3では主に測距技術や無線通信の基盤部分が改良されています。
Bluetooth SIGが挙げている主な変更は、
| Bluetooth 6.3の主な変更 | 内容 |
|---|---|
| Channel Sounding改善 | デバイス間の距離測定をより正確・効率的に |
| PHYごとのRTT精度 | 通信方式ごとに距離測定精度を扱える |
| HCI容量拡張 | 将来のBluetooth機能追加に備える |
| RF要件の調整 | ClassicとLEの無線設計を効率化 |
といったものです。
見て分かる通り、
「音質を良くする新コーデック」
がBluetooth 6.3に追加されたわけではありません。
ここが最初に押さえておきたいポイントです。
Bluetooth 6.3=高音質ではない
スマートフォンやイヤホンでは、
「Bluetooth 5.4より6.0の方が数字が大きいから音も良い」
と思ってしまいがちです。
しかしBluetoothのコアバージョンと、イヤホンの音質は別の話です。
Bluetooth SIG自身も、製品を説明するときには「Bluetooth Core 6.3対応」といったバージョン番号だけではなく、実際にその製品がどのBluetooth機能をサポートしているのかを明確に伝えることを推奨しています。
つまり、
Bluetooth 6.0
Bluetooth 6.1
Bluetooth 6.3
という数字だけを比較してイヤホンの音質を判断するのは適切ではありません。
実際の音質には、
使用するコーデック、イヤホンのドライバー、DSP、チューニング、スマートフォン側の対応状況なども関係します。
たとえばLDACやLHDCのような高音質コーデックに対応していても、それは「Bluetooth 6.0だから使える」という関係ではありません。
現在公開しているMOONDROP Puddingの記事でも、PuddingはBluetooth 6.0とLHDCに対応していますが、この2つは別々の仕様です。
【内部リンク:MOONDROP Puddingは買うべき?】
では「最大7.5Mbps」とは何?
ここからが今後のBluetoothで面白いところです。
Bluetooth SIGが開発を進めているのが、
Bluetooth High Data Throughput(HDT)
です。
現在のBluetooth LEには「LE 2M PHY」があり、最大データレートは2Mbpsです。
HDTではこれを、
最大7.5Mbps
まで引き上げる計画です。現在の2Mbpsと比べると、約4倍に近いデータレートになります。
重要なのは、
この7.5MbpsはBluetooth 6.3の機能ではない
ということです。
HDTは2026年9月時点ではまだ開発中です。
Bluetooth SIGは2026年10月のCEATECでもHDTについて講演する予定で、仕様採択の目標を2026年後半としています。
つまり、
Bluetooth 6.3
=現在の最新コア仕様
HDT
=その先に向けて開発されている高速通信技術
と分けて考えた方が分かりやすいでしょう。
なぜ7.5Mbpsまで必要なのか
「イヤホンで音楽を聴くだけなのに、そんな高速通信が必要?」
と思うかもしれません。
現在のBluetooth LE 2M PHYは、名前の通り最大2Mbpsです。
一方、CD相当のPCM音源を単純計算すると、
44,100Hz × 16bit × 2ch
なので、
約1.41Mbps
になります。
数字だけを見ると2Mbpsに収まりそうですが、Bluetooth通信には音声データ以外の通信処理やオーバーヘッドも必要です。
そのため実際には、音声をそのまま送るのではなく、LC3などのコーデックを使ってデータ量を減らして伝送します。
Bluetooth SIGも、現在の2Mbpsという上限が高解像度オーディオや大容量データ転送などの新しい用途に対して制約になりつつあるとして、HDTを開発しています。
最大7.5Mbpsになれば、
より多くの音声データ
複数の音声ストリーム
より高品質な音声
などをBluetooth LEで扱える余裕が増えます。
HDTはどうやって7.5Mbpsを実現する?
少し技術的ですが、HDTでは新しいPHY(物理層)が導入されます。
Bluetooth SIGによると、
2Mbps
3Mbps
4Mbps
6Mbps
7.5Mbps
という複数の通信速度を利用できる設計です。
高速化にはQPSKやQAMといった変調方式を利用します。
ただ、単純に通信速度を上げるだけではありません。
HDTでは電波環境が悪化したときに通信速度を下げるなど、状況に応じてビットレートを切り替えられる仕組みも想定されています。
さらにFEC(前方誤り訂正)を利用し、一部のデータにエラーが発生しても再送を減らせるよう設計されています。
つまりHDTは、
速いけれど不安定になる通信
を目指しているわけではなく、
速度・安定性・省電力を同時に改善する
ことを狙った技術です。
「Bluetooth標準ロスレス」も開発中
イヤホン好きにとってはこちらの方が気になるかもしれません。
Bluetooth SIGは現在、LE Audioの機能強化として、
High-resolution and lossless audio
を正式に開発項目として掲げています。
つまり将来的には、
特定メーカー独自の方式ではなく、
Bluetoothの標準仕様としてロスレス/ハイレゾ音声を扱えるようにする
方向で開発が進んでいます。
現在すでにBluetoothでロスレスをうたう製品は存在しますが、メーカーやチップセットなど特定の仕組みに依存する場合があります。
Bluetooth SIGが進めているのは、より広いメーカー間で相互運用できる標準規格としてのロスレス対応です。
もし実現すれば、
「スマホは対応しているのにイヤホンが非対応」
「メーカーが違うと使えない」
といった制約を減らせる可能性があります。
ただし、まだ仕様は決まっていない
ここは重要です。
2026年9月時点では、Bluetooth SIGはロスレス/ハイレゾ対応を開発中のプロジェクトとして公開している段階です。
どのコーデックを採用するのか、どの程度の音質やビットレートになるのかといった最終仕様は、まだ正式に発表されていません。
そのため、
「次のBluetoothならCD音質を完全無圧縮で送れる」
といった断定は現時点ではできません。
また、HDTの最大7.5Mbpsという数字も、音声データだけに使える実効速度を意味するわけではありません。
あくまで無線通信の最大ビットレートです。
7.5Mbpsならハイレゾを無圧縮で送れる?
これも少し注意が必要です。
例えば、
24bit/96kHz/ステレオ
のPCM音声を単純計算すると、
96,000 × 24 × 2
= 約4.61Mbps
です。
一方、
24bit/192kHz/ステレオ
なら、
192,000 × 24 × 2
= 約9.22Mbps
になります。
つまり、最大7.5Mbpsになったとしても、
あらゆるハイレゾ音源を無圧縮でそのまま送れる
わけではありません。
さらに実際の無線通信には通信制御のデータも必要です。
HDTの価値は「何でも無圧縮にできる」というより、これまでよりはるかに大きなデータを扱えることで、高品質なコーデックやロスレス伝送の設計自由度が大きくなることにあります。
Bluetooth SIGもHDTの用途として、高解像度・ロスレス音声を明確に挙げています。
5GHz・6GHzのBluetoothも検討されている
さらに先の話もあります。
現在のBluetoothは基本的に2.4GHz帯を利用しています。
しかしBluetooth SIGは、
5GHz帯・6GHz帯でもBluetooth LEを利用できるようにするプロジェクト
も進めています。
現在の2.4GHz帯には、
Bluetooth
Wi-Fi
ワイヤレス周辺機器
など多くの機器が存在します。
利用できる周波数帯が増えれば、将来的に混雑を避けたり、大容量通信や低遅延通信を実現したりする選択肢が広がります。
ただし、こちらもまだ開発中。
「Bluetooth 6.3から5GHzが使える」という意味ではありません。
次世代Bluetoothイヤホンは何が変わりそう?
ここまでのBluetooth SIGの開発計画を見ると、次世代イヤホンで重要になりそうなのは、単なる「Bluetooth 7.0」のようなバージョン番号ではありません。
注目したいのは、
HDT対応なのか
LE Audioのロスレスに対応するのか
Auracastに対応するのか
どのコーデックを利用できるのか
といった具体的な機能です。
これはBluetooth SIG自身が、製品のコアバージョン番号より具体的な対応機能を伝えることを推奨している理由とも一致します。
将来イヤホンを選ぶときには、
「Bluetooth 6.3だから高音質」
ではなく、
「Bluetoothで何ができるイヤホンなのか」
を見ることがますます重要になりそうです。
Bluetooth 6.3対応イヤホンを待つ必要はある?
イヤホンの購入を考えている人が、
「Bluetooth 6.3製品が出るまで待った方がいい?」
と考える必要は、現時点ではほとんどありません。
Bluetooth 6.3自体は音質向上を目的としたアップデートではないからです。Bluetooth SIGが公表している6.3の主要変更も、測距、HCI、RF設計などが中心です。
音質を重視してイヤホンを選ぶなら、今はBluetoothの数字よりも、
対応コーデック
ドライバー
チューニング
LE Audio対応
スマートフォン側との互換性
を確認した方が実用的です。
一方、HDTやBluetooth標準のロスレス対応製品が実際に登場し始めれば、そのときはイヤホン選びが大きく変わる可能性があります。
まとめ|Bluetooth 6.3より「その先」が面白い
Bluetooth 6.3は2026年5月に公開された最新のBluetoothコア仕様です。
ただし、
Bluetooth 6.3=高音質化
ではありません。
6.3の主な改良は、測距精度、インターフェース容量、無線設計などBluetoothの基盤部分です。
一方、その先ではBluetooth SIGが、
最大7.5MbpsのHDT
LE Audioのロスレス/ハイレゾ対応
5GHz・6GHz帯への拡張
などを進めています。
特にHDTは、現在最大2MbpsのBluetooth LEを最大7.5Mbpsまで高速化する計画で、Bluetooth SIGは高解像度・ロスレス音声を用途の一つに挙げています。
つまり本当に注目したいのは、
「Bluetooth 6.3のイヤホン」ではなく、その先に登場するHDTや標準ロスレス対応製品
です。
Bluetoothイヤホンは、まだかなり進化する余地がありそうです。





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