飲食店で料理を作る仕事というと、
食材を入れる
味付けをする
火加減を見る
鍋を振る
料理を取り出す
鍋を洗う
といった作業を、人が行うのが当たり前でした。
ところが、その一連の作業をかなりの部分まで自動化する業務用ロボットが日本でも本格展開され始めています。
それが「SUQUETT Pro(スケットプロ)」です。
SUQUETT Proは、食材や調味料の投入から加熱・撹拌、調理後の洗浄までを自動化する業務用の全自動調理ロボットです。
日本では株式会社ちょいとが国内独占販売権を取得し、2026年6月から本格展開を開始しています。さらに2026年9月30日から東京ビッグサイトで開催される「FOOD STYLE JAPAN 2026」では、国内初となる実機デモも予定されています。
ただ、
「ロボットが料理してくれる」
だけなら、これまでも自動調理機は存在しました。
SUQUETT Proで興味深いのは、
食材投入から味付け、火加減、撹拌、洗浄、さらにレシピや店舗データの管理まで、厨房そのものをシステム化しようとしていること
です。
飲食店の厨房は、これからどこまで自動化されるのでしょうか。
SUQUETT Proとは?
SUQUETT Proは、飲食店や給食施設などでの大量調理を想定した業務用自動調理ロボットです。
公式仕様では、23Lの炭素鋼鉄鍋を搭載し、最大調理量は5kg。最高出力12.6kWのIH加熱に対応しています。
本体サイズは幅800×奥行960×高さ1520mm、重量は210kgと、家庭用調理家電とはまったく違う大型の業務用設備です。
調理できる料理として、公式サイトでは、
チャーハン
麻婆豆腐
エビチリ
酢豚
肉じゃが
豚の生姜焼き
筑前煮
パスタ
カレー
親子丼
牛丼
ガパオ
などが例として掲載されています。
炒め物専用ロボットというより、撹拌や加熱を中心に幅広いメニューへ対応するシステムと考えた方が近そうです。
何が「全自動」なのか
SUQUETT Proの作業の流れは比較的分かりやすくなっています。
まず、カットした食材を具材ケースへセットします。
その後、タッチパネルから料理を選択すると、
食材投入
↓
調味料投入
↓
加熱
↓
撹拌
↓
完成
↓
鍋の洗浄
までを自動で進めます。
固形調味料3種類、液体調味料5種類、油・ソース2種類を扱える仕様になっており、調味料の量や投入タイミングも設定できます。
つまり、
「材料を入れたら一定時間加熱するだけ」
という単純な調理器ではありません。
レシピに合わせて、
いつ材料を入れるか
いつ調味料を加えるか
どの火力で加熱するか
どのように撹拌するか
まで制御する仕組みです。
5kgの料理を約4分で調理
大量調理を前提としているのも大きな特徴です。
公式サイトでは、調理内容によって異なるものの、炒め物なら約4分で最大40人前を調理できるとしています。
23Lの大鍋と高出力IHを使い、15秒で300℃まで到達すると説明されています。
家庭で料理するときにも、大量の食材を一気に入れると鍋の温度が下がり、水分が出てしまうことがあります。
飲食店ではこの問題がさらに大きくなります。
SUQUETT Proでは高火力を利用し、大量調理でも温度低下を抑えることを狙っています。
特にチャーハンや炒め物などでは、単に「火が通ればよい」のではなく、火力と撹拌の組み合わせが仕上がりに影響します。
AIは何をしている?
製品名や公式発表では「AI搭載」とされています。
では、生成AIのようにAIが料理を考えるのでしょうか。
そういう意味ではありません。
運営会社の説明では、AIが食材や環境の変化を分析し、火力や加熱時間を補正する仕組みに利用されています。
SUQUETT ProにおけるAIは、
「今日のおすすめ料理を考えるAI」
というより、
登録したレシピを安定して再現するために調理条件を調整する技術
として考えると分かりやすいでしょう。
実は重要なのが「味の標準化」
調理ロボットというと、人件費削減ばかりに目が行きます。
しかし飲食チェーンなどでは、別のメリットがあります。
それが、
「誰が作っても同じ味に近づける」
ことです。
人が料理すると、
経験
疲労
混雑状況
スタッフの熟練度
などによって仕上がりに差が出ることがあります。
SUQUETT Proでは、調味料の量や投入タイミング、加熱、撹拌などをレシピとして登録できます。
さらに専用アプリからレシピを管理し、複数店舗へ共通レシピを配信する機能も用意されています。
たとえば全国50店舗を展開するチェーンで新メニューを始める場合、
「各店舗の料理人へ作り方を教える」
だけでなく、
本部から同じ調理設定を配信する
という運用が可能になります。
これは料理の自動化というより、
「レシピをソフトウェア化する」
という変化とも言えます。
店長は厨房ではなくアプリを見る?
さらに面白いのが店舗管理です。
SUQUETT Proの専用アプリでは、
売上データ
注文データ
レシピ
調味料の残量
調理実績
機器の稼働状態
店舗別の実績
などを確認できるとされています。
調理実績から必要な在庫量を計算し、発注計画や仕入れ予測を支援する機能もあります。
つまりSUQUETT Proは、
料理を作る機械
だけではありません。
厨房で起きていることをデータ化する装置
という側面も持っています。
複数店舗を運営する企業にとっては、こちらの方が重要になる可能性もあります。
なぜ今、調理ロボットなのか
背景にあるのが飲食業界の人手不足です。
帝国データバンクが2026年7月に行った全国企業調査では、非正社員が不足していると回答した「飲食店」は57.7%で、調査対象の業種の中で最も高くなっています。
前年よりは改善しているものの、半数を大きく超える飲食店が人手不足を感じている状況です。
飲食店では、
料理を作れる人を採用する
↓
作り方を教える
↓
経験を積んでもらう
という時間が必要でした。
しかし人が集まらなければ、新しい店舗を作りたくても厨房を回せません。
そこで、
「料理人をどう増やすか」
ではなく、
「少ない人数でも厨房を回せる仕組みに変える」
という発想が重要になってきています。
料理人がいなくても店は回る?
ここは少し冷静に見る必要があります。
「全自動調理ロボット」と聞くと、
食材を置いておけば、ロボットが勝手に一皿完成させてくれる
ようにも感じます。
実際にはそこまで完全ではありません。
SUQUETT Proでも、まずスタッフがカット済みの食材を具材ケースへセットする必要があります。
完成後には料理を取り出して盛り付けたり、食材や調味料を補充したりする必要もあります。
さらに自動洗浄機能はありますが、公式FAQでは閉店後に鍋の洗浄・乾燥・油慣らしなどの日常メンテナンスが必要とされています。
つまり、
料理人が完全にゼロになる
というより、
「料理人が付きっきりで鍋を振る時間を減らす」
と考えた方が正確です。
人が、
食材準備
盛り付け
接客
衛生管理
などを担当し、火の前で繰り返す調理工程をロボットへ任せる。
こちらの方が現実的な使い方でしょう。
1人で複数台を操作する厨房も考えられる
SUQUETT Proの公式サイトでは、
従来:調理スタッフ4人
↓
導入後:調理ロボット4台+オペレーター1人
という想定例も公開しています。
もちろん、これはメーカー側が設定した条件に基づく試算で、すべての飲食店で同じ削減効果が出るわけではありません。人件費、営業時間、料理内容、店舗規模によって結果は変わります。
それでも興味深いのは、
「1人が料理を4品作る」
のではなく、
「1人が4台の調理ロボットを管理する」
という厨房が現実的になってきたことです。
工場で1人の作業員が複数の機械を管理するのと、かなり近い考え方です。
どんな飲食店と相性がよさそう?
SUQUETT Proと特に相性がよさそうなのは、
同じ料理を繰り返し大量に作る現場です。
たとえば、
外食チェーン
フードコート
ホテル
学校・病院
社員食堂
弁当・惣菜工場
セントラルキッチン
などです。
公式サイトでも、学校、病院、工場、ホテル、ファストフード、外食チェーン、中食、コンビニなどでの利用を想定しています。
一方、
一皿ずつ細かく味を変える店
料理人の感覚そのものを価値としている店
非常に少量の料理を頻繁に変更する店
では、ロボット化のメリットが小さい可能性があります。
すべてのレストランが自動調理になる、という話ではありません。
導入には設備条件もある
SUQUETT Proは大型の業務用設備です。
本体重量は210kgで、200Vの電源を使用します。
そのため、
「厨房に置けばすぐ使える」
家庭用家電とは違います。
設置スペース
電源設備
厨房レイアウト
排気設備
運搬・搬入経路
保守体制
などを含めて検討する必要があります。
導入費用についても、機械本体だけでなく設置工事などが必要になる場合があります。
販売価格や導入条件は店舗によって変わる可能性があるため、最新情報は販売元へ確認するのが確実です。
9月30日に国内初の実機デモ
SUQUETT Proが今注目される理由の一つが、2026年9月30日から東京ビッグサイトで開催される「FOOD STYLE JAPAN 2026」です。
同展示会では、日本国内で初めてSUQUETT Proの実機デモと試食体験が予定されています。
FOOD STYLE JAPAN 2026は9月30日~10月2日に東京ビッグサイト東1~3ホールで開催される、外食・中食・小売業界向けの商談展示会です。
なお、一般消費者向けのグルメイベントではなく、公式案内では業界関係者を対象とした専門展示会とされています。
ここで実際の調理速度や料理の仕上がりが公開されれば、SUQUETT Proへの注目度がさらに高まる可能性があります。
料理の「職人技」はなくなるのか
調理ロボットを見ると、
「そのうち料理人はいらなくなるのでは?」
と考えてしまいます。
ただ、実際には少し違う未来になるかもしれません。
料理には、
レシピを考える
食材を選ぶ
季節に合わせる
新しいメニューを開発する
味を評価する
接客する
といった仕事があります。
一方で、
決まった量の調味料を入れる
決まった温度で加熱する
決まった時間撹拌する
という作業は、自動化との相性が良い部分です。
つまり調理ロボットが増えると、
「料理人がいなくなる」のではなく、「人がやる料理の仕事が変わる」
可能性があります。
厨房も「工場」のようになっていく?
これまで飲食店の厨房は、人の経験や動きに大きく依存する場所でした。
しかしSUQUETT Proのようなシステムでは、
レシピをデータ化
↓
ロボットへ配信
↓
自動調理
↓
調理実績を記録
↓
在庫や売上を分析
という流れになります。
これは製造業の工場で進んできたDXとかなり似ています。
今後の飲食店では、
厨房設備
POSレジ
モバイルオーダー
配膳ロボット
在庫管理
AI需要予測
などが一つにつながっていく可能性もあります。
そうなると、「レストランを経営する」という行為自体が、今よりずっとデータ中心になるかもしれません。
まとめ:SUQUETT Proが変えるのは料理より「厨房の働き方」
SUQUETT Proは、
食材投入
調味料投入
加熱
撹拌
調理
洗浄
までを自動化する業務用調理ロボットです。
23Lの鍋と高出力IHを搭載し、条件によっては最大40人前の炒め物を約4分で調理できるとされています。
ただし、本当に注目したいのは調理速度だけではありません。
レシピをデータとして管理し、複数店舗へ配信し、調理実績や在庫、機械の稼働状況まで管理する。
つまり、
料理そのものだけでなく、厨房運営をデジタル化する仕組み
なのです。
もちろん食材の準備や盛り付け、保守など、人の仕事がすべてなくなるわけではありません。
それでも、
「料理人を何人集められるか」
で店舗数が決まっていた飲食業界が、
「少ない人数で何台の機械を動かせるか」
という世界へ変わっていけば、飲食店の形はかなり変わるでしょう。
SUQUETT Proは、そんな“ロボット厨房”が現実になり始めていることを感じさせる製品です。





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